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岐阜地方裁判所 昭和60年(む)32号 決定

主文

本件各準抗告の申立てをいずれも棄却する。

理由

一  本件準抗告申立ての趣旨及び理由は、弁護人小島隆治作成の昭和六〇年二月七日付、同月九日付(二通)各準抗告申立書、同月八日付準抗告申立理由書及び同月九日付同追加理由書(二通)記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

二  一件記録及び当裁判所の事実調べの結果によれば、被疑者は昭和六〇年二月四日傷害致死被疑事実により通常逮捕され、同月七日岐阜簡易裁判所裁判官の命令により代用監獄岐阜県岐阜中警察署留置場に勾留されたこと(接見禁止付き)、同日担当検察官である岐阜地方検察庁検察官松浦由紀夫は同警察署署長に対し「捜査のため必要があるので、右被疑者と弁護人との接見又は書類若しくは物の授受に関し、その日時、場所及び時間を別に発すべき指定書のとおり指定する」旨のいわゆる一般的指定書を交付したこと、被疑者の弁護人に同月四日選任された申立人は、同月七日午後四時二〇分ころ同警察署に赴き、被疑者との接見を求めたところ、同署留置担当係長和田清から「本件は検察官からの指示により、弁護人の接見は、別に検察官が発付する接見指定書によって行うことになっているので、その指定書を持参しない限り接見は認められないことになっている」旨を告げられ、接見ができなかったので、松浦検察官に電話を掛け、右処分は違法であるから取消すよう申入れるとともに、現在捜査に支障はないから速やかに接見を認めるよう求めたところ、同検察官は、接見は指定書によって行っているので、弁護人の希望する同日午後五時から相当時間接見できるよう指定するから、その指定書を隣の検察庁まで受け取りに来るよう応答したが、申立人はこれに応ぜず、結局申立人は被疑者と接見することができなかったこと、申立人は、同月八日午後一時三五分ころ、同日午後五時ころ及び同月午前八時三八分ころにも、同警察署において被疑者との接見を申出たが、前回とほぼ同様の経過をたどり、結局接見することができなかったこと、現在の実情として、岐阜地方検察庁においては、監獄の長等をして接見を求める弁護人に一般的指定処分の趣旨を十分説明させ、検察官との連絡を図るよう指示してあり、検察官としては、弁護人から接見の申出があったときは、捜査に支障ない限り、直ちに具体的指定書を発付する運営がなされていることが認められる。

三  ところで、検察官が、監獄(代用監獄を含む。)に収容されている被疑者と弁護人との接見につき、刑事訴訟法三九条三項に基づく具体的指定権を有効に行使するためには、監獄の長等に媒介的機能を持たせ、接見を求める弁護人と検察官とを連絡させる方策が不可欠である。いわゆる一般的指定書は、弁護人から被疑者との接見の申出があった場合に、検察官が同条項に基づく具体的指定をするための措置として監獄の長あてに交付した一種の事務連絡用の内部書面であり、これが発せられたときは、監獄の長は、検察官に具体的指定権行使の機会を与えるため、接見を求める弁護人に対し検察官において具体的な接見指定をなす意向である旨の表示をすべきものとされている。従って、一般的指定書が交付されても、別に検察官が具体的指定をすれば弁護人と被疑者との接見は実現するのであるから、接見を全面的に禁止するものでないことは明らかである。もし一般的指定処分が違法にして許されないものであるとするならば、検察官と監獄の長とは無連絡の状態となり、検察官の意向とは無関係に接見の許否が決せられることとなり、かくては検察官の具体的指定権は無に帰することとなる。従って、検察官の具体的指定権を有効ならしめるためには、いわゆる一般的指定処分は、接見を求める弁護人と検察官とを結び付ける措置として、これを許容せざるを得ないのであって、違法の措置とは言い難いのである。そして、検察官が一般的指定書を発して今後具体的指定権を行使する旨を表明した事件においては、前条項の「捜査のため必要があるとき」の判断は、第一次的には指定権者である検察官が行うべきものであるから、弁護人や監獄職員又は警察職員の判断によって検察官の右判断の機会を部分的にもせよ排除することはできない。

このような一般的指定処分の結果、弁護人は検察官に対し具体的指定を求めなければならなくなるが、この程度の負担は制度の趣旨に照らし受忍すべき範囲内に属するものというべきである。

検察官の行う具体的指定の方式については、法定されていないので、検察官の裁量に属すると解されるところ、書面のほか電話等口頭による方法も考えられるが、書面による接見指定には、指定の内容を明確にし、接見をめぐる過誤や紛争を未然に防止するとともに、不服申立てがあった場合の審判の対象を明確になどの利点があるので、極めて緊急の必要性がある場合とか、弁護人が指定書受け取りのため検察庁まで出向くことが著しい負担となる場合など特段の事情のある場合を除き、検察官が接見指定を書面でなすこと及び弁護人に対し右書面を検察庁まで受け取りに来ることを要求することは許容されるものと解すべきである。本件においては、これを許容しない特段の事情は認めることができない。

四  そうすると、前記松浦検察官がなした一般指定処分には何ら違法不当の点はなく、前記のとおりその運用の実情に照らしても違法不当の点はなく、同検察官が接見を禁止したものではないから、本件準抗告のうち右一般指定処分の取消しを求める申立ては理由がない。

また、申立人は、同検察官自身ないしその意を受けた前記警察職員が同年二月七日、同月八日及び同月九日申立人に対し、具体的指定書を持参しないと接見できないから、指定書を検察官から受け取るよう促した各行為をもっていずれも接見拒否処分であるとして、その各取消しを求めるのであるが、右各行為は上述のとおり本件一般的指定処分の結果ないし運用形態に過ぎないから、別個の接見拒否処分ではなく、これに違法不当の点もないから、本件準抗告中その取消しを求める各申立ても理由がない。

五  よって、本件準抗告の申立てはいずれも理由がないから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 山川悦男)

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